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彼の声 [Alphabet People]

昨日、携帯に見慣れない番号からの着信。

まだ8時半。

聞き慣れた声。

休日出勤をしたT氏の声。

 

半分眠ったままの私の脳は一気に目覚めた。

 



  もう、少し前のはなしだけど、

  そっちへ行ったんだよ。

 

  え?お仕事で?

 

  いや、会いたくて。

 

  え?いつ頃?

 

  ちょっと前だよ。

  家の近くまで行って電話したんだけど

  携帯が留守電になっちゃって。

 

  でも、私の家、知らないでしょ?

  

  前に○○の近くだ、って話してたでしょ。

  その近くの大きな木が目印だ、って。

 

  うん。

  

  でも、大きな木はわかったけど

  おおまかな情報しかないからたどり着けなかった。

 

  土曜日とか?



  そうそう。



  土曜日はここのところずっと出ていたから…

  講演会や勉強会に出ていて

  携帯切ってるし…

  ごめんなさい。

 

  いや、こっちが勝手に時間があいたから

  行っただけのことだし。

 

  だって、自宅から随分時間かかったでしょ?

  

  だいたい1時間半くらいかな。



  貴重なお休みの時間を…

 

  会いたくて行くときなんてそんなの気にならないよ。

  また時間が空いたら行くかも知れないよ。

 

  やだ、その時は自宅を出るときに連絡してよ。

  土曜日の私なんて人様の前に出られないもん。

 

  あはは、そういうのを見に行くんだよ。

 

  やー、趣味悪いよ。





彼の声は私の耳から脳へ入り

その電気信号は私の感情を揺さぶる。



会っているわけではない。

それでも、何かぎこちない感情のきしみがある。

 

会っていたらどうしただろう。

この部屋に招き入れていただろうか。

数年会っていないそのありのままの感情を

カラダを重ねることで確認し合っていただろうか。

 

この部屋にはタツヤの影が見え隠れしている。

それは明らかにわかるだろう。

スリッパも、食器も、そして煙草の香りも。



  

T氏の声は

私に小さな優越感にも似た幸福をもたらす。

それと同時に

私を不安定にもさせる。



T氏の声は

直線距離120㎞先から聞こえている。
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