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こぼれる雫はゆうやみにとける 2 [こぼれる雫はゆうやみにとける]

 
もう、春というより夏の気配が色濃くなってきたころ、
道場に稽古に来た20人程のなかに彼女はいた。
初めて見た時から彼女だけがちょっと雰囲気違う感じで。
なにが、というのはよくわからないけど、
とにかくちょっと気になる存在で。
ぼくの視線が彼女をとらえるのに
そう時間はかからなかったと思う。

彼女はもちろんそんなこと気づいてもいなくて、
淡々とみんなと稽古していた。
週2回、彼女が稽古に現れるのが気になって、
いつか、声をかけてみたいと思うようになっていた。

彼女はその他20名を超す人たち
(ぼくにとってはエキストラ)の中でも、
気負うことなくぼくのヒロインになっていて。

無造作にまとめられた髪、
後れ毛、
ゆるく残った前髪。

ぼくは周りの女性にはこれまで感じたことない
情緒的なものというか
憂いみたいなものをを感じ。
その前髪をさりげなく耳に掛ける左手が
スローモーションにみえるほどだった。
 

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