こぼれる雫はゆうやみにとける 10 [こぼれる雫はゆうやみにとける]
あの頃、私、つらい恋愛していたの。
自分から終わりにしないといけない、って
わかっていても踏み切れずにいて。
あなたが私のことを気にしているんじゃないか、って
先輩から聞いたのはそんな頃だったの。
私、あなたの射とても好きだし、尊敬しているし、
いつも穏やかで礼儀正しくて…
そんな人が気にしてくれているなんて
ほんとかな、って思って。
あなたと視線があうと
すこしドキドキして
年甲斐もなく、ドキドキしてたの。
だったら、いっそ、つらい恋愛なんてやめて…
なんて思ったりもしたの。
そんなときにあなたから
「抱きしめたい」って言われて。
最初はとまどったけど
それ以上にすごく嬉しかったの。
私にも普通の恋愛ができるかもしれない、って。
ちょっと思ったりして。
エキストラたちは、
青の点滅信号を笑いながら渡っていった。
道を挟んでぼくと彼女だけが取り残される。
ビルの看板を見上げ
落ちてくる水滴を気にしながら
彼女が続ける。
ぼくは彼女の唇からこぼれることばを見つめた。
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