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こぼれる雫はゆうやみにとける 8 [こぼれる雫はゆうやみにとける]

その日、
その場で言うのもどうかと思ったけど、
稽古仲間の前でぼくは「彼女」と
婚約したことを公表した。

昇段と婚約、いい口実でみんな盛り上がり、
ぼくも相当飲まされたけど、
ふしぎと頭の片隅が冷静だった。

久しぶりに会った彼女は
かつての彼女と何も変わっていない。

だけど、だけどぼくがあの日
最後に見た彼女は
「儚い」ということばでしか表せないような
危うさを含んだ表情をしていたし、
ここにいる彼女とも全く別人だった。


どうしても、
あっさりとした彼女と同一人物とは思えず、
自分を納得させるための方法…
それを見つけることなんて不可能なのを承知で
考えていた。
ずっと
考え続けていた。



その夜 

アルコール臭いぼくは
ぼくの「彼女」に赤い花束は渡せなかった。

だけど
かわりに
思いきり抱きしめた。
 

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